真・恋姫無双~魏・南華老仙伝~
「ん・・・・・・、ここ、は?」
眩い光に飲み込まれ、視覚と聴覚、意識を奪われていた。
外史の終端、俺がいた世界の物語は終わりを迎え、そこから新たな想念が生まれ、
新たな外史の始端となる。貂蝉からその話を聞いていたが・・・。
ゆっくりと瞼を開けた俺の目に飛び込んだのは黒。
地面も空も存在しない黒い世界。暗闇とは違い、どこから光が当たっているのか分からないが
目の前に出した自分の手を目視できるし、自分の存在を認識できている。
足が地に着かず、宙に浮いているような不思議な感覚に襲われながらも現状を確認しようとした。
「あらぁ~ここにいたのね、ご主人様ぁ」
背後から聞き覚えのある、このねっとりとした低音の声が俺の現状を打開した。
俺は反射的に後ろを振り返った。
「貂蝉・・・か」
心底、残念な気分になる。最初に出会った人間が愛紗達ではなく、よりにもよってこの変態漢女とは。
精神衛生的にも最悪な絵面に深い溜息を吐いた。
「んもぅ、私に会えたっていうのにぃ、どぉ~してそんな溜息をつくのかしら?」
身体をくねくねと動く様は本当に見るに堪えない。今すぐにでもこの場を去りたい所だが
ここがどこなのかを確認しないといけない。そして、この状況を説明してくれるのは
遺憾ながらもこの目の前の漢女なのだ。
「貂蝉、ここはどこなんだ?・・・愛紗たちはどうなったんだ?」
「あらぁ、ご主人様はここがどこか分かっていなかったのねぇ。やっぱりここに来て大正解!だったわねぇ~」
漢女は気持ち悪いほどのどや顔を俺に見せつけてくる。すごく不愉快で苛立つが何とか堪えて話を聞かないと。
「ここは、そうねぇ。言葉にするならばぁ~・・・そう、『狭間』かしら」
「狭間・・・、どういう意味だ?」
「あの時、ご主人様は外史の可能性を示した。
その結果、外史は終端を迎えたのだけれどそこを起点に新たな外史がいくつもか誕生したの。
複数の外史が同一の次元に存在することで生じる外史と外史の間に、私たちはいるのよ♪」
「そうか、間・・・狭間か。外史の外側、例えば宇宙空間のようなものか・・・」
「んっふふふ~、さすがご主人様。ほら、あそこを見てちょうだい」
そう言うと貂蝉はある方向を指し示す。
その方向に俺は目を向けると、黒一色だと思っていた場所に一点の光を見つけた。
「あれって・・・、もしかしてあれが外史なのか?」
「大正解!さぁ、ついてらっしゃい。もっと近くで見てみましょう」
先程の光を近くで見てみようと貂蝉の後を追う。
足が地についていないからどうやって移動するか最初は困惑したが、
貂蝉に言われた通りに行きたい方向に身体を傾けば勝手にその方向に移動してくれた。
慣れない感覚だが、なんとか貂蝉の後を追いかけることが出来ている。
「さぁ、着いたわよ」
そうしてしばらく移動していると、目的地に到着したようだ。
貂蝉の体で隠れて見えなかったので、横に移動して目的のものを確かめる。
遠くから見えていた光は近くで見てもさして大きなものではなく、手の中に納まる程度のものだった。
「これが外史なのか?何というか、予想していたより小さいんだな」
「そうねぇ。けどぉご主人様、外史は概念的なものよ~。本来であればこんなふうに目に見えるものとして
存在していないの。
これは外史を形として認識できるようにご主人様が勝手に解釈しているだけよ」
貂蝉の口から出てくるよく分からない話を軽く流して、俺は光の中を覗き込んでみた。
するとその外史の中身だろうか、そこには俺と愛紗が二人。
愛紗が伸ばした手を俺が手に取ろうとする、そんなシーンが飛び込んできた。
どういう状況なのかよくわからないが、希望に満ちた二人の表情を俺の胸がキュッと締め付けられた。
・・・ここには愛紗たちはいない。
俺には希望どころか想いを共有できる人がいない、寂しくて虚しくて悲しかった。
「貂蝉」
俺は今一番の疑問を貂蝉にぶつけた。
「俺は・・・俺は何なんだ?この外史に俺がいるなら、俺は誰なんだ?
どうしてここにいるんだ?あの時、俺は・・・おい、一体何が起きてるんだよ!?」
冷静に考えれば理由が分からない。
貂蝉の話によれば、あの終わりから新しい外史がいくつもの生まれた。
目の前にある外史もその一つなのだろう、それは俺にも分かる。
ならば、俺は?俺は何故一人、狭間に佇んでいるんだ。・・・俺は答えが欲しかった。
俺とは対称的に貂蝉はしんと静かにほくそ笑んでいた。
けれど、いつもの飄々とした雰囲気はそこになかった。
「・・・本当に知りたいの、ご主人様」
「・・・何の話、だ?」
「何も知らず、ただ存在するだけでいれば・・・それで終わりなのよ。それでも知りたぁい?」
思わせぶりな物言いにいらいらする。
でも一方で背筋がぞくっとした。すごく嫌な予感がする。
それは貂蝉の気持ち悪い言動による生理的な嫌悪感からくるものなのか。
それとも別の何かなのか、よく分からない。
答えを聞くことに一瞬ためらう、だけど•••。
「いいから、教えてくれ!」
貂蝉は目を閉じ、眉間に皺を寄せて何かを考えている。
しばらく考え込んでいたが、閉じていた目をゆっくりと開き俺を見た。
「・・・分かったわ。結論を言ってしまえばぁ、ご主人様は『北郷一刀』ではないのよ」
「は?・・・どういう意味だよ、それ」
意味が分からず、貂蝉に聞き返す。本当に意味が分からなかった。
「あなたは外史の突端となる存在、『北郷一刀』が外史を発生させる際に零れ落ちた存在。
もっとはっきり言えばぁ・・・燃え滓なのよ」
「はっ?・・・はぁ?・・・・・・はぁっ!?」
言葉を失い、それしか言えなかった。いつもの悪い冗談、と一瞬思ったが、貂蝉の顔も目も一切笑っていなかった。
まるで道端に落ちているゴミを見るかのような、冷めた表情に俺は後ずさりしてしまった。
「大丈夫よ、あなたの『北郷一刀』は無事に新たな外史を発生させることができたわ。
その外史がまさにそれ。だから・・・安心して頂戴」
「それで、俺をフォローしているつもり、かよ!
俺が北郷一刀じゃない?ただの燃え滓?ふざけんな、ふざけんなよ!?何だよそれは!」
素直に受け入れるにはあまりにも残酷な事実が頭の中をぐるぐると回って俺の思考を掻き乱す。
分かっている、これは貂蝉のせいじゃない。偶然の確立の中でたまたま俺だったという話なんだ。
だけど、頭で理解できても、心がそれを受け入れることを拒否していた。
貂蝉に怒りをぶつけるのは筋違いだ。だが、感情をコントロールできない俺はひたすらに貂蝉を責めた。
「ごめんなさい、ご主人様。あなたには外史を発生させるだけの力はないのよ。
だから、わたしにもどうする事も出来ないの」
「・・・・・・っ!」
あの貂蝉がただただ申し訳なさそうな顔で謝る姿に、俺ははっと我に返り喉から出かけていた言葉を飲み込んだ。
頭に上っていた血は一気に引いたが、俺の心を支配していた怒りはどうしようもない絶望に置き換わっていた。
ここに地面があったならば、俺の体は地面に崩れ落ちていただろう。
「俺は・・・、どう、したら・・・いいん、だよ」
絶望で心が砕け散りそうな俺は無意識にそんなことを呟いてしまった。
俺はこれからどうなるんだ。こんな場所で一人寂しく、まさか永遠にこのままなんて・・・。
「ご主人様・・・、なっ!?」
「・・・?」
貂蝉は何か俺に言いかけていたようだが、何かに気づいたのか両目を見開いて見上げていた。
俺も何だろうと見上げている。するとそこには夜空に輝く星々のように沢山の光が一面に広がっていた。
「これ、は・・・これ全部、外史なのか?」
その光景に圧倒され、俺は思わず見入ってしまう。外史の光は今もなお増え続けていて俺の視界に入りきらなくなった。
「これは・・・、かなりまずいかもしれないわねぇ」
この想像を絶する光景をみて、貂蝉は眉をひそめて懸念を示す。
「なにがまずいんだよ?外史が増えるのは別に悪いことじゃないだろう」
「えぇもちろん。けどぉ、その増える速度が異常なのよ。このままだと外史が・・・!」
「どういう意味だ?」
「この空間は無限ではないの。空間の許容量を超えて外史が存在することはできない。
もちろん、外史がどれだけ増えても許容量を超えることはないの。
けれど、もし万が一、外史の数が空間の許容量を上回ったらぁ~」
「どう•••、なるんだ?」
「簡単に言うと、人々の想念が弱まる。
想念がなければ、外史は発生しない。つまり、外史が成り立たなくなっちゃうってわけ」
外史は『正史の中で発生した人の想念によって観念的に作られた世界』だと以前教えられた。
外史の根底にある想念が無くなれば外史は生まれない、ということか。
「想念が失われ、創造されなくなった外史を人々はいずれ忘れてしまう。
そして、完全に忘れられた外史は・・・この世界から無かったことにされてしまうの」
「え・・・!」
無かったことにされる?
あの世界が、愛紗たちが、俺が・・・無かったことにされるっていうのか?
「そんな・・・、そんな馬鹿な!?」
「でもぉ、それが現実なの。誰からも忘れ去られた物語を一体誰が見るというのかしら?
それともぉ〜、いつか誰かが見てくれる、なんて。
万に一つあるかないか微妙な可能性に賭けてみるというのかしら、ご主人様?」
それは勝ち目は0だって言っているのか。
「くそ・・・っ!」
このままだと、全て無くなってしまうかもしれない。
それは、ここで孤独に打ちひしがれる以上に辛いことかもしれない。
何か手はないのか、外史を守る方法は?
「貂蝉、何か方法はないのか?」
「あらぁ、そんなことを聞いてどうするのかしら?」
そう言いながら貂蝉はほくそ笑む。その笑みを見て察しがついた。こいつ、最初からこうなることが分かっていたのか。
「お前の言うように、俺はただの燃え滓かもしれない。
だけど・・・、それでも俺は北郷一刀だ。
愛紗たちと創ってきた世界が無かったことにされるだなんて、俺には耐えられない!
だから頼む、教えてくれ!俺に出来ることなら何でもする!!」
「・・・そう、そこまで言えるってことはぁ、覚悟は出来ているのね?」
それを待っていましたと、言わんばかりの満面の笑み。
こいつの思惑通りになっているのが少し癪だが、もう言葉にした以上、俺も引くことは出来ない。
「何をすればいいんだ?」
「別段、難しいことではないわ。
これから無数に発生する外史で許容量を超えないよう調節してあげるの。
外史を発生させるだけの力は無くても、外史の発生頻度を抑えたり、
終端を迎えた外史を削除して空間の空き容量を確保することは出来るはずよ」
貂蝉はすごく簡単そうに言っているが、内容が内容なだけに果たして俺に出来るのだろうか不安になる。
「だいじょ~ぶ、慣れるまではぁ私も手伝ってあげるから♪」
そんな俺の心情を察したのだろう。そう言って、貂蝉は俺をフォローしてくれる。
俺をサポートをしてくれるのはありがたいが、それがよりにもよって筋肉達磨の漢女というのは
やはり勘弁してほしいというのが本音だ。これからの憂鬱を考えると、たまらず深い溜息をついてしまった。
「それとご主人様、ひとつ忠告するわ。
これは本来、管理者と呼ばれるひとがするお仕事なの。
もし、それを担うということになれば、あなたは北郷一刀を捨てなくてはいけない」
「北郷一刀を、捨てる・・・」
「何度も言ってるけど、北郷一刀は外史の突端となる存在。そして、管理者は文字通り外史を管理する存在。
この異なる二つを同時に持ち合わせることは出来ないわ。管理者になれば、あなたは北郷一刀とは別の存在になるの」
「それ、は•••」
「何でも出来る・・・と、さっき言っていたけど。果たして、あなたにその覚悟はあるのかしら?」
北郷一刀を捨てる、言葉にすれば簡単だけど、きっと貂蝉の言おうとしていることはそんな簡単なことではないだろう。
愛する人達とその世界を守るために、俺は俺を捨てなくてはいけない。
今、俺は重大な選択を迫られているんだ。
「・・・覚悟がないなら、無理強いはしないわ。
あなたはこのまま灰になるっていう立派な選択があるものね」
「くっ・・・、馬鹿にしやがって!」
「馬鹿にしてないわ。実際あなたには『やる』『やらない』の二択しかないのだから。
それともぉ、他に第三第四の選択肢があるというのであれば・・・そちらを選んでも良いわよ。
・・・私は知らないけど♪」
「・・・・・・お、俺は・・・」
あの決断からどれほどの時が過ぎたのか、もはや覚えていなかった。
時間の概念もすでに失われていた。あるのは並行外史を管理するという唯一の存在意義。
「・・・ん?」
つま先に何か触れる。名前だった。
捨てられていた名前を拾い上げる。
それは元々、ここの管理者のものであったが今は退去していなかった。
誰のもので無いならば、この名前を自分の名前にしよう。
やはり名前がないのは不便だ、自分を示す名前(記号)はあったほうが良い。
ああ・・・、なんて皮肉だ。
かつての名前を捨てた自分に相応しい名前だと思うのは気のせいではないだろう。
かつての自分が着けていた学生服を脱ぎ捨て、管理者用として用意された白装束を羽織る。
かつての自分を知るのは貂蝉のみ。左慈や于吉もその事実を知らないだろう。その方が都合が良い。
かつて愛した人達とその世界を守るために、新たな管理者としてその役割を全うする。
「俺は・・・、私は南華老仙。外史を管理する存在」
その後、南華老仙は並行外史を管理するためにあるシステムを構築する。
後に『外史喰らい』と通称されるものである。
これは、とある名無しの管理者が犯した罪の原点である。
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お久しぶりの方はお久しぶりです、初めましての方は初めましてです。
アンドレカンドレです。
私はかつてここで真・恋姫無双の二次創作を書いていました。
私が初めて二次創作を投稿してから約11年の時が過ぎてしまいました。最後に作品を投稿したのが約9年前。この間、仕事などの影響で二次創作の意欲がありませんでしたが、今回久しぶりに二次創作を投稿しました。
内容は、私がかつて書いていた二次創作の「魏・外史伝」から派生した短編小説です。この作品を書くにあたり、かつて私が書いたものを読み直しましたが、どれも読んでいて恥ずかしい拙い内容に一人で悶絶していました。しかし、それでも私が初めて書いた二次創作ということもあり、思い入れがあるのも事実です。
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