No.1193301

蓮が咲き行く道へ三話

BLEACHの二次創作です。
浦原喜助の娘の成長物語です。

2026-09-15 13:34:26 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:53   閲覧ユーザー数:53

三話「ヒロインと友達」

 

 かか様が義骸に入ってから、もう十数年が経った。

 神格化が進むと存在が薄れ、消えてしまう危険があるらしく、それを防ぐための処置が施された特別な義骸。そのおかげで、ここ数年はかか様が目を覚ましている時間も増えている。

 私としては嬉しいけれど、かか様本人は夢と現実の区別がつかなくなってきていて、混乱することもあるそうだ。夢がリアルすぎるらしい。でも、それでも起きてくれる。それだけで私は嬉しい。

 

 そして思う。間近で見る義骸の完成度に、毎度のことながら感心する。

 てて様、あなた器用すぎでは? 料理に裁縫、機械の製作、地下空間の建設、果ては義骸の開発まで――これはもう、チートだよ。二次創作なら最高のアイテム職人だよ。でも私は……そんなことはできないけどね。

 

 それにしても、てて様は私の前世や前々世を、どこまで把握しているのだろう。

 二歳の頃に、私はちょっとした“やらかし”をしている。……といっても、死神と神の血を引く人間の混血である私は、成長スピードが人間とは違う。二歳の期間も、きっと長かったはずだ。その頃に何かを喋ったらしいけど、その記録は既に破棄されているようだ。何か、見られて困る内容でもあったのだろうか?

 

 かか様も、てて様に劣らず賢い。記録がなくても、記憶に残っていれば問題はないのかもしれない。

 それに、おんじ――狼の神様である彼は、「魂を見れば、大体のことは分かる」と言っていた。さすがは神様。伊達に神をやってはいない。

 

 だから私は、ときどき神社に行って、おんじと話をする。

 ただし、神社までの道のりはひと苦労だ。髪や瞳の色のせいで差別的な目を向けてくるガキがいるので、神力で姿を隠して向かうようにしている。

 

 そんなある日、神社で一人の少女と出会った。

 亜麻色の髪を揺らす、小学生くらいの女の子。私の姿を見た瞬間、目を輝かせて指を差し、こう言った。

 

「綺麗な幽霊のお姉ちゃん!」

 

 ……どうやら、私の結界を見破ったらしい。驚きながら、私は結界を解いて透けた身体を通常の姿へと戻す。

 

「うわぁ……綺麗」

 

 ふふ、そりゃそうよ。

 色素はてて様譲り、顔立ちはかか様譲り。つまり私は、チート夫婦のいいとこ取り。美しくならないわけがない。

 しかも、今日の服装は特製の着物。着付けはかか様、製作はてて様。羽織をひるがえし、私はそっと地に降り立つ。少女の前に歩み寄り、微笑んだ。

 

「こんにちは」

「こ、こんにちは。お姉さん、ゆうれいさん? 私、お姉さんがお空飛んでるの、何度も見てるよ」

「な、なんと……私の術を見破った!?」

「じゅつ?」

「人間には見えないようにする結界のことだよ」

「へぇ……じゃあ、お姉さんって人間じゃないの?」

「うーん、半分くらい……かな」

「お姉さん、ふしぎだね〜。ふふっ」

 

 少女は屈託なく笑った。その笑顔を見ていると、なぜか懐かしいような面影を感じた。

 そう考えていると、彼女はぴょんと私の目の前に跳ねてきて、私の手を取った。

 

「手、あったかいんだね。お姉さん、私の友達になってくれない?」

「……いきなりだね、君。知らない人に勝手に触っちゃダメだよ。変態とかいるかもしれないし」

「お姉さんが、へんたいさん?」

「私は子どもに興味ないし、むしろ人間がちょっと苦手なの」

 

 前々世では、家族の誰かに焼かれた記憶がある。

 あまりにも痛くて記憶は断片的だけど、あの焼ける感覚だけは今も忘れられない。

 前世では、その人間嫌いを隠して生きていた。だって表に出したら、生きづらかったから。

 まあ、あの世界は特殊だったし。学園都市の闇は深くて、嫌でも見たくないものまで見えてしまう場所だった。

 

「お姉さん、なんか遠くを見てたけど……どうしたの?」

「うん、ちょっとね。世知辛い世の中だったなーって思って」

「せちがらいなら、私が友達になる!」

「ふふ、君はなかなか面白い。私の眼鏡に叶った。友達になってあげよう。で、名前は?」

「井上織姫!」

 

 ……なんと。

 一護くんのヒロインではないか。

 なるほど、見たことがあると思ったらそれか。小学生だと髪も短いし、まさかとは思ってたけど。

 

「何して遊ぶ?」

「その前に、君の話を聞かせてよ。名前も教えないとね」

「私は浦原常成(うらはらつねなり)だよ」

「ツネナリお姉ちゃん! あのね、友達の作り方を教えて欲しいの」

「……それは、ぼっちな私にかなり酷なお願いだね」

「えっ、お姉ちゃん友達いないの?」

「未練を残したくなくて作ってなかった。でも……今、できちゃったけどね」

 

 織姫は「みれん?」と首をかしげていたけれど、彼女の無邪気な話を聞いているうちに、陽は傾いていた。

 私はおんじに挨拶だけして、両親が待つ家に帰る。

 

 ――この出会いをきっかけに、私は少しずつ、原作の主要キャラたちと関わっていくことになる。

 けれど、その時の私は、まだ何も知らなかった。

 

※※※

 

 浦原喜助視点

 

 ――神社から戻った常成(つねなり)が、少しだけ笑っていた。

 

 義骸に入って動けるようになった嫁さんの顔よりも、その笑みはずっと柔らかくて、ずっと優しい。

 

 ……ああ、誰かと話したんだな、とすぐに分かった。

 そして、それが「人間」だったと気づいたとき、少しだけ胸が痛んだ。

 

 この子は、人間に焼かれた記憶を持って生まれてきた。

 しかも二度も、別々の人生で。どちらも、この子にとっては終わり方のひどい物語だった。

 

 だから、生まれ変わったこの世界で、なるべく「未練を残さないように」と、友達を作ろうとしなかった。

 そのくせ、どこか寂しそうで、どこか楽しそうで。

 

 常成の笑顔は、いっつも矛盾していて――それが、親としてはたまらなく切なかった。

 

 けれど今日の笑顔は、少し違っていた。

 まるで、遠い昔に置き去りにしてきたものを、ようやく見つけたような。そんな顔だった。

 

「……織姫ちゃん、か」

 

 神社の結界には、俺の神力も混じってる。出入りした魂の波長も、ある程度は追える。

 それを辿って、名前を割り出すのは簡単だった。

 

 井上織姫――この時代で、あの子と出会うとは思わなかったな。

 彼女の魂もまた、少しだけ人間離れしている。感受性が豊かで、優しくて、光に近い。

 

「……うん。あの子なら、きっと大丈夫」

 

 呟いて、ボクは目を閉じた。

 この子が、また誰かと繋がろうとしている。

 怖がりながら、それでも踏み出していく姿は、どこか嫁さんにも似ていた。

 

 もう少し、このままでいい。

 もう少しだけ、何も知らないまま、無垢な出会いを続けさせてやりたい。

 

 だって、原作の渦に巻き込まれるのは――もう少し、先の話だから。


 
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