No.1193883

蓮が咲き行く道へ十六話

BLEACHの二次創作です。
浦原喜助の娘で、成長物語です。

2026-09-28 14:17:18 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:35   閲覧ユーザー数:35

十六話「初めて泣いた日」

 

 私は一週間ずっと部屋に篭っていた。

 篭って、篭って、ただひたすら篭っていた。

 

 かか様が、消えたから。

 てて様が創った義骸(ぎがい)ごと。

 

 かか様が消える直前まで、私の感情は動かなかった。

 ――なのに。

 

『私は……お前達が居ない世界になんて居たくない……。でも、もう無理なんだ……。私、は、成を探す。だから、お前達は、私の兄を探せ。津井原、秋次(あきつぐ)だ……。これ、以上は、すまない……言えないんだ……』

 

 てて様の腕の中で、かか様はがくりと力を失った。

 そのまま私の名前を呼ぶ。

 私はその手を握った。力が、もう返ってこなかった。

 

『津井原ミツケでも……成でも……。お前は私の子どもだ。私の唯一の娘だ……。私は、絶対に、諦めない……。お前達を、探して……絶対、会うから……』

 

 儚く微笑んで、そして一瞬で――消えた。

 何一つ残さずに。

 

 私は消えた空間に手を伸ばし、震える指で温もりの残滓を探した。

 

『なんで、なんで、最後まで私の事を気遣うの?! 私、全然泣けないのにっ! こんな不出来な娘なのに、どうして大事にしてくれるの?! かか様、かか様!! 私だって、大事だよ!! でも、前世が邪魔して泣けないの!! どうしてそんな私を娘だって言うのぉっ!!!』

 

 叫んで、叫んで――私はようやく涙を流した。

 滂沱のように、抑え込んでいた感情が溢れ出す。

 

 影に押し込めてきた本心が、ようやく姿を現した。

 

 私は――二人とはあまりにも違いすぎる。

 私は前世で子ども達を研究し、教育し、愛して、実験もした。

 殺しこそしなかったけど、倫理観は壊れていた。

 

 私はまともじゃない。

 てて様とは違う研究者。

 倫理が歪んだ、作りかけの人間。

 

『あぁ……っ』

 

 喉が裂けるほど叫んで、泣き喚いた。

 てて様に押さえつけられても、私は憑かれたように暴れ続けた。

 

 ――そして気づくと、部屋にいた。

 

 もう力が抜けて、立ち上がることすらできなかった。

 側にいた織姫が、私をそっと抱きしめてくれた。

 

「大丈夫だよ、成ちゃん。私、付いてるから」

「てて、さま……は?」

 

 喉が焼けるようで、声が掠れた。自分でも驚くほど弱い声だった。

 

「えっと……成ちゃん、喜助さんをコテンパンにしちゃって……今は休んでるの」

「わたしが……ててさまを? そんな……ててさまは私よりずっとつよいはずで……」

「成ちゃんを傷つけないように抑えただけだよ。でも能力の調整ができなくて、部屋が半壊したの」

「……わたし、ててさまの荷物だ……」

「そんな訳ない!」

 

 織姫は強く、即座に否定してくれた。

 

「成ちゃんと友達になれてよかった。常沖さんがいたから私達は生きてこられたし、雨竜君とも縁ができた。今の私達は、成ちゃんがいなきゃ成り立たないよ。荷物なんかじゃない! 私が保証する!」

「……」

 

 織姫はひたすら寄り添い続けた。

 それでも私は崩れ落ちたまま立ち直れず、呼吸が乱れるほど泣いた。

 

「大丈夫だよ、成ちゃん。私達が付いてる。だから――泣いていいの。泣いて、泣いて、泣き切っちゃえばいい。そしたらきっと変われるよ」

 

 その言葉で、私は泣き尽くした。

 今世の浦原常成としての感情を、初めて感じたのだ。

 

 ――泣いてはいけないと思っていた。

 ――泣き方なんて忘れていた。

 

 でも。

 

 私は初めて、泣いた。

 前々世も、前世も、一度だって泣けなかった私が。


 
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