十六話「初めて泣いた日」
私は一週間ずっと部屋に篭っていた。
篭って、篭って、ただひたすら篭っていた。
かか様が、消えたから。
てて様が創った義骸(ぎがい)ごと。
かか様が消える直前まで、私の感情は動かなかった。
――なのに。
『私は……お前達が居ない世界になんて居たくない……。でも、もう無理なんだ……。私、は、成を探す。だから、お前達は、私の兄を探せ。津井原、秋次(あきつぐ)だ……。これ、以上は、すまない……言えないんだ……』
てて様の腕の中で、かか様はがくりと力を失った。
そのまま私の名前を呼ぶ。
私はその手を握った。力が、もう返ってこなかった。
『津井原ミツケでも……成でも……。お前は私の子どもだ。私の唯一の娘だ……。私は、絶対に、諦めない……。お前達を、探して……絶対、会うから……』
儚く微笑んで、そして一瞬で――消えた。
何一つ残さずに。
私は消えた空間に手を伸ばし、震える指で温もりの残滓を探した。
『なんで、なんで、最後まで私の事を気遣うの?! 私、全然泣けないのにっ! こんな不出来な娘なのに、どうして大事にしてくれるの?! かか様、かか様!! 私だって、大事だよ!! でも、前世が邪魔して泣けないの!! どうしてそんな私を娘だって言うのぉっ!!!』
叫んで、叫んで――私はようやく涙を流した。
滂沱のように、抑え込んでいた感情が溢れ出す。
影に押し込めてきた本心が、ようやく姿を現した。
私は――二人とはあまりにも違いすぎる。
私は前世で子ども達を研究し、教育し、愛して、実験もした。
殺しこそしなかったけど、倫理観は壊れていた。
私はまともじゃない。
てて様とは違う研究者。
倫理が歪んだ、作りかけの人間。
『あぁ……っ』
喉が裂けるほど叫んで、泣き喚いた。
てて様に押さえつけられても、私は憑かれたように暴れ続けた。
――そして気づくと、部屋にいた。
もう力が抜けて、立ち上がることすらできなかった。
側にいた織姫が、私をそっと抱きしめてくれた。
「大丈夫だよ、成ちゃん。私、付いてるから」
「てて、さま……は?」
喉が焼けるようで、声が掠れた。自分でも驚くほど弱い声だった。
「えっと……成ちゃん、喜助さんをコテンパンにしちゃって……今は休んでるの」
「わたしが……ててさまを? そんな……ててさまは私よりずっとつよいはずで……」
「成ちゃんを傷つけないように抑えただけだよ。でも能力の調整ができなくて、部屋が半壊したの」
「……わたし、ててさまの荷物だ……」
「そんな訳ない!」
織姫は強く、即座に否定してくれた。
「成ちゃんと友達になれてよかった。常沖さんがいたから私達は生きてこられたし、雨竜君とも縁ができた。今の私達は、成ちゃんがいなきゃ成り立たないよ。荷物なんかじゃない! 私が保証する!」
「……」
織姫はひたすら寄り添い続けた。
それでも私は崩れ落ちたまま立ち直れず、呼吸が乱れるほど泣いた。
「大丈夫だよ、成ちゃん。私達が付いてる。だから――泣いていいの。泣いて、泣いて、泣き切っちゃえばいい。そしたらきっと変われるよ」
その言葉で、私は泣き尽くした。
今世の浦原常成としての感情を、初めて感じたのだ。
――泣いてはいけないと思っていた。
――泣き方なんて忘れていた。
でも。
私は初めて、泣いた。
前々世も、前世も、一度だって泣けなかった私が。
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BLEACHの二次創作です。
浦原喜助の娘で、成長物語です。