五話「生き返らせると言う噂を鵜呑みにした少年」
私はよく、おんじがいる神社に足を運ぶ。目的はただ一つ――白髪に赤い目をした、ある少年が訪れていないかを確かめるためだ。
その少年は、前世で私と暮らしていた。学園都市で一番になると言って、無謀な理想を語っていた少年。私は彼を手伝い、彼は私の「最高傑作」となった。私は、前世では研究に没頭していた一介の研究者だった。今世ではそんな熱意はとうに捨てている。てて様の背中を見るたびに、自分のちっぽけさを思い知るのだから。
そう、私はもう諦めた。ただ好きなことをして、今を生きている。
……などと強がっても、心はそう簡単に切り替えられない。
前々世の長期にわたる虐待、前世での懸命な日々、理不尽な死――それらは、忘れようにも身体に刻みついている。私はその記憶を基盤にして生きている。人が苦手なのもその一部。でも、それを表には出さない。かか様とてて様に嫌われたくないから。人が苦手でも、人と繋がっていたい。……矛盾してるよね。
そんな気晴らしもあって、私は時折おんじの元へ顔を出す。前世のことを話し、明日の話をしながら、姿隠しの術をかけて神社を後にしようとした、そのときだった。
――ドン!
突如、勢いよく飛び込んできた少年に思いっきりタックルされ、私は地面に倒れ込んだ。全身の空気が抜ける。
「かはっ……!」
少年は私の体を抱きしめるようにホールドし、切羽詰まった声で叫んだ。
「母さんを生き返らせてくれ! あんた、ここの神様なんだろ?!」
……神様?
衝撃で言葉が出ないまま、私は相手の顔を見た。ツンツンに逆立ったオレンジ色の髪。強い意志を宿す瞳。
(黒崎一護……!? なんで私が“神様”扱いされてるんだよ……)
「お願いだ! “ことわり”に逆らえるって聞いたんだ! 死んだことを、なかったことにできるって……だから、母さんを……!」
子どもの必死な訴えに反応する間もなく、
「おい、ガキ。うちの子に気安く抱きつくな。」
冷たい声と共に、少年の体がふわりと浮いた。見ると、かか様がその襟首を片手で持ち上げていた。相変わらず容赦がない。
「離せ! 離せよっ!」
「体がなきゃ、生き返らない。それに、“死”を覆すには相応の覚悟が要る。簡単に言うな。それと、その噂、どこで聞いた?」
淡々と問いかけるかか様に、一護は力なく答えた。
「……学校の図書館でメモを見つけて……。前に“犬を生き返らせてもらった”っていう人に会ったんだ……それで……」
かか様の瞳が険しさを帯びる。無表情な彼女の感情は、目にこそ現れる。
「その“犬”の話が、お前の母親に当てはまると本気で思ったのか?」
「……いや、でも……生き返ったって……!」
「動物の輪廻と人間の輪廻は違う。お前の母親はもう生まれ変わってる可能性が高い。」
「え……?」
「人は死ねば、輪廻の輪に還る。それを無理に戻すのは、今生きている人々を否定する行為になる。それに――」
一瞬、かか様の声が優しくなる。
「母親として言っておく。自分のせいで死んだなんて思い続けられるのは、きっと一番つらい。」
一護は黙り込んだ。ようやく、かか様は彼の襟首を離す。
「まずは、うちの子に謝れ。タックルしただろう。」
一護は俯き、ぽつりと呟いた。
「ご、ごめんなさい……お姉さん。勘違いして……」
私はふうっと息をつき、優しく笑いかけた。
「ううん。誤解が解けたならいいよ。でも、その噂、どこから聞いたの?」
「……同い年の友達が……小耳に挟んで。ずっと前から学校で噂になってたらしくて。オレ、最近知って……」
(ああ……一護の小学校時代の描写ってあまりなかったけど、確かに友達少なかった気がするな……)
「じゃあ、その噂が間違いだって分かったなら、もう関わっちゃダメ。危ないから。」
「危ない……?」
「小学生を狙って噂を流してる、変な奴がいるかもしれないって考えた?」
「……!」
私はそっと手を伸ばして、一護の頭を撫でた。
「これから変な噂を聞いたら、私に教えてくれる?」
とびっきりの笑顔で頼んでみせる。だって、主人公には情報が集まってくるものだしね。
一護はなぜか顔を真っ赤にして、力強く頷いた。
それを見て、かか様がにやりと笑う。
「……また少年の純情を奪ったな。」
……どういう意味? かか様。
ともあれ、これが私と黒崎一護との、本格的な接点となった――。
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BLEACHの二次創作です。
浦原喜助の娘です。成長物語です。
※とある魔術の禁書目録のクロスオーバーです。