No.1193547

蓮が咲き行く道へ九話

BLEACHの二次創作です。
浦原喜助の娘です。成長物語です。
※母親視点です。

2026-09-21 09:06:10 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:65   閲覧ユーザー数:65

九話「確かな愛情の存在」

 

 浦原常沖(うらはらつねおき)――本当の名は津井原絢香(ついはらあやか)。

 

 ――もう少し、もう少し……もう少しだけこうしていたい。

 そんな願いと共に目が覚めると、嫌でも現実の輪郭が戻ってくる。

 あぁ、起きてしまった。もう少しだけ、あの夢を見ていたかったのに。

 

 私はようやく体を起こす。まぶたが重い。

 朝だと思ったが、デジタル時計は13時を示していた。

 もう昼過ぎだ。

 

 私は長く学校に行けていない。

 『眠り病』――そう呼ばれた症状に陥ったからだ。

 あの日、母を想い泣きながら眠りに落ちた私の代わりに、母が目を覚ましたという。

 兄の秋次(あきつぐ)は、私が再び意識を取り戻した時、何度も何度も泣きながら私の名――絢香と呼んだ。

 

 眠りについたのは九歳の頃。

 実際に眠っていたのは一年ほどだが、浅い眠りと現の間を揺らめくように彷徨った。

 復帰できるまでは学校も休んだまま。

 こちらの世界には、私の生きてきた痕跡がない。

 夫の喜助も、愛しい娘の常成の姿もない。確かに存在しているのに、この世界では影ひとつ残っていない。

 

 ――それがとても、寂しくて、悲しい。

 

 いつか三人で、当たり前に笑っていられる日が来れば。

 あちらから私だけが消えてしまうなんて、考えたくなかった。

 夫と娘を置いていく未来など、あってはならないのに。

 

 私は二つの家族と生きられる未来を夢見ている。

 けれど、今日はあちらへ戻れる気がしなかった。

 こちらでの覚醒時間は日に日に伸びている。

 私は本当に、消えてしまうのだろうか。

 ――あちらが夢で、こちらが現実なのだから。

 

 ※

 

「沖サン……」

「ん……」

 

 優しく頭を撫でる手の感触。

 目を開けると、そこには夫――浦原喜助。

 視線が重なると、彼は照れたように目を細めた。

 いつも、こっそり撫でていることは知っている。

 

 あちらの一日を終え眠りにつき、こちらへ戻ってきた時、私は三日眠っていたそうだ。

 津井原絢香から、浦原常沖へ――帰還。

 

 戻れたことに安堵したのも束の間、喜助の瞳は深い哀しみの色を宿していた。

 

「すまん……喜助」

「いえ……沖サンが戻ってきてくれたなら、それでいいッスよ」

「それでも、すまん。私と本体の時間差が本格的に出ている。もう、普通に目覚められるとは思わないでくれ」

「分かったッス。みんなにも伝えておきます」

「あぁ……私は……」

「どうしたんスか?」

「お前たちと離れたくない。ずっとここに居たい……でも、世界が――許してくれない」

「……大丈夫ッスよ。

 世界が許してくれないなら、ボクはここを出ます。

 成と一緒に、貴女を探す。それだけッス」

「喜助……。――成を頼む」

「もちろんです。ボクは沖サンの夫で、成の父親ですから。

 それは譲れません。世界が相手でも」

 

 私は喜助へ身を預ける。

 涙がこぼれ、視界が揺れる。

 それでも、彼の温度を確かめたかった。

 

「お前に会えて良かった」

「……ボクもッスよ、沖サン」

 

 喜助はそっと頬に触れ、哀しみを含んだ瞳から静かに涙を零した。

 長い年月を共にしてきた私たち。

 愛は薄れることなく、積み重なり、確かにここに在る。

 

 ――確かな愛情の存在として。


 
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